夢酔双六その1 [YUMEYOI]南蛮賽子🎲
1759年、
築城祝いの前日に、
イエズス会の宣教師を
こっそりと城内へ招き入れた。
その時、
宣教師の持参した
築城のお祝品の中に
珍しい物を見つけた。
一見すると
ビードロ(ガラス)細工の
ようにも見えた。
信長が
それを持ち上げて見ると
透明の小さな立方体の中に
キラキラと光る物が
一つ入っていた。
不思議そうな顔をして
それを振ってみると
中から軽やかな音が聞こえた。
これはなんだ❓️
信長は宣教師に尋ねた。
これは
南蛮賽子(ナンバンサイコロ)と
呼ばれる物の一つですが、
大変珍しい物でございます。
ビードロで出来た賽子の中に
もう一つ小さな賽子が
入っているのでございます。
しかし、
賽子とは言っても
ビードロ細工の為に
賽の目は入っておりません。
その代わりに
賽子を振れば
軽やかな音色をたて
心を落ち着かせくれる
そうです。
中でも
極めて希に
振った賽子が
止まった時に
眩しく光輝く時が
あるそうです。
それは
最高の幸運を
招き入れた合図❗
になるそうです。
このような貴重な品物は
天下人となられるお人が
持たれるに相応しい物だと
思われます。
宣教師が信長に答えた。
そういうものか❗
信長は試しに賽子を
その場で振って転がしてみた。
確かに
軽やかな音は響いていたが
賽子が
光輝くことはなかった。
安土城築城のお祝いの日。
開門の前から
信長へのお祝いの数々の品物を
多くの人々に持たせて
並ばせていたのは、
家来の羽柴秀吉であった。
信長の命を受けての
毛利家のいる
中国攻めの最中であったが、
わざわざ、築城祝いに
駆けつけてきたのだった。
その列の長さは
安土城下まで
延々と連なっていたそうな。
安土城から
その光景を見た信長は
大笑いをしながら
猿め❗
やりょうるわい❗
と呟くと、
周りにいた家来衆に
お前達も
猿を見習え❗
と言った。
お祝品を全て届けてから
秀吉が安土城へ登城すると
直ぐに
信長から別室へ呼ばれた。
この頃になると
秀吉と言えども
簡単には信長に会うことは
出来なかった。
それだけ、
信長も多忙だ
というのもあったが、
信長の世話をしている
取巻き衆へも気を使わないと
信長には会えなかった。
信長は
すこぶる上機嫌であった。
その席で
秀吉は
是非、
殿様自らの陣頭指揮での
中国攻めをお願いした。
話を聞くと
信長は
ニタリと笑うと
ワシが行くまで、
これがワシだと思って
持っておれ❗
そう言うと
ビードロで出来た南蛮賽子を
秀吉に与えた。
これは
世の中に二つはない
珍しいものだそうだ❗
猿❗
その賽子を振ってみろ❗
秀吉が賽子を転がした。
軽やかな音が聞こえたが
何にも起こらなかった。
その様子を見て
こやつも
やはり
ワシと同じだ❗
と信長は心の中では
安堵した。
秀吉は大量のお祝品と
引き換えに
たった一つの南蛮賽子を
手に入れた。
しかし、
それは
信長の秀吉に対する
[信頼の証]
でもあった。
三年後。
備中高松城を水攻めしていた時に秀吉宛に早飛脚が届いた。
それは
信長が本能寺で死んだ❗
という知らせであった。
秀吉と同僚の
明智光秀に夜討ちされた
という驚くべき内容であった。
秀吉は錯乱した。
どうすれば良いのか
全く判断が
つかなかくなってしまった。
この様子を側で見ていた
軍師の黒田官兵衛は
ボロボロと涙を流しながら
オタオタしている主人に
向かって言った。
殿様。
今こそ、
信長公に頂いた
南蛮賽子を振ってみては、
如何でしょうか❓️
信長公の意思が
賽の目に表れるかも
知れませぬぞ…❗
泣きじゃくりながら秀吉は
箱にしまっていた南蛮賽子を
取り出した。
そして、
南蛮賽子を
地面の上に転がした。
軽やかな音色を奏でると
南蛮賽子が止まった。
すると
今までに見た事のない
眩しいくらいの光を
出し始めた。
これには
進言した黒田官兵衛も驚いた。
そして、
黒田官兵衛が秀吉に
顔を向けると
その顔は喜びに満ち溢れた顔に
変わっていた。
しかし、
秀吉もそれに気付くと
一瞬でその喜びを顔から
消し去った。
官兵衛…❗
毛利との後始末は
お主に頼んだぞ❗
そう一言、
呟くと、
全軍❗
今より、
京へ向かう❗
と大声で指示を始めた。
後に
この動きは
[中国大返し]と云われた。
これにより、
明智光秀は秀吉に敗れ、
明智光秀は
[三日天下]
に終わった。
秀吉は
その後、
何度か
南蛮賽子を振ってはみたが、
南蛮賽子が光輝くことは
二度となかった。
その内に
時間が過ぎると
南蛮賽子の存在さえ
忘れ去り、
秀吉は
自分の力だけで
天下人になった❗
と思うようになっていた。
秀吉の死後、
天下分け目の
[関ヶ原の戦い]が
起きる事になる。
その頃、
豊前中津で
既に隠居していた。
しかし、
その戦いの情報を入手した時、
財産を投げ打って兵を集め
九州の一部を平定し始めた。
そして、
その天下取りに
自分も
名乗りを上げようと思った。
その戦いの途中で
ふと昔の事を思い出した。
秀吉が忘れしまっていた
南蛮賽子を
こっそり持ち出して
自分の箱の中に
大事にしまっていたのだった。
そして、
官兵衛は
南蛮賽子を取り出すと
転がしてみた。
しかし、
かって秀吉が振って
光輝いた時と同じように
その南蛮賽子が
光輝くことはなかった。
それを見て
それ以上に
戦い続けることを止めた。
すぐさま兵を解散し、
再び、
静かに隠居生活を始めた。
南蛮賽子も
自分には不必要な物だ❗
と分かると
他の茶碗などと一緒に
兵を集めた資金に変える為に
手放した。
その時に官兵衛が呟いた。
所詮、
ワシの夢は夢止まり。
叶わね夢に
南蛮賽子は必要なし…。
その後、
南蛮賽子が
何処に行ったのかは
誰も知らない。
おしまい。